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『陽子麒麟 慶国浩瀚編』


「主上・・・」

 いつになく暗い声に書類に目を通していた浩瀚は視線を上げた。
 そこには、やはり声同様暗い表情の景麟が立っていた。
 どうしたと言うのだろうか。今の時間であれば日課の禁軍での鍛錬をしているはずだが。

「主上・・・私は麒麟として失格です」
 失格ではないが、破格ではあるだろう。
「どうしました?」
 慌てることなく浩瀚は尋ねた。
「主上はこうして、山のように仕事をこなされていると言うのに…私は…全く主上のお役に立てていない。己の不甲斐なさに死んでお詫びを!!」
 麒麟が死んだら王も死ぬ。
「落ち着きなさい。私は陽子が不甲斐ないなどとは少しも思ったことはありませんよ」
「主上・・・」
 仕事は確かに山のようにあるが、この思い込んだら一直線な麒麟はどうにかしておかなければそれこそ大変な事態になる。国の存亡の危機だ。
「人には人の分というものがあります。私には私の、陽子には陽子の。私と同じ仕事を陽子がする必要は無いのです」
 陽子がぎゅっと眉間に皺を寄せる。
「私は私が出きる精一杯のことをしていますし、陽子は陽子のできることをしている。そうではありませんか?」
「・・・はい」
「陽子は何の為に強くなりたいと思ったのですか?」
「私は・・・私が選んだ王を、主上をお守りするためです」
「では、陽子は立派にその責を果たしているのではありませんか?こうして私は貴方に守られて穏やかに執務をこなしているのですから」
「主上・・・っ」
「だから、死ぬなどという悲しいことは言わないで下さい」
「すみませんっ主上!私が愚かでした!!・・・そうですね、主上をお守りすることこそ私の仕事!これからもより一層鍛錬に励みます!」
 握り拳を突き上げ、陽子は宣言した。

 
 『最強の麒麟』の名を欲しいままにするのも近いだろう。


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